九州・沖縄で、看護師・社会福祉士・理学療法士・はり師・きゅう師・歯科衛生士を目指す人のための大学

山住 賢司(社会福祉学科/大学院精神保健学専攻)|社会福祉学科

事実の観察は実証科学のアルファでありオメガである(宮城,1968)

山住 賢司先生

(社会福祉学科/大学院精神保健学専攻― 2020年4月1日現在 ―

所属と専門分野

専門は知覚・認知心理学です。
心理学とは私たちの「こころ」を科学的な方法で研究する学問分野で、こころの働きが関与する幅広い分野をカバーした様々な特色を持った学問です。
「こころ」とは何かという問いに対して決定的な答えというものはまだありません。
個人的には「わたし」と「わたしを取り巻く世界」の情報を取り入れて解釈し、世界と相互作用しながらうまく生きていくためのシステムではないかと思っています。

なぜ物体の形はそのように見えるのか、空気の振動を音として認識して音の高さを感じたり、音楽のメロディのようにまとまりのある意味を感じたりするのはなぜか?私たちの「こころ」は、目や耳といった感覚器官を通じて取り入れた情報をどのように処理し、解釈して意味を与えているのかを、知覚心理学や認知心理学といった分野の心理学では研究しています。

最近の研究テーマ:話し手の印象は、音声の持つどのような特徴に影響されるのか?
私たちの日常生活におけるコミュニケーションにおいて音声が果たす役割については古くから関心が持たれ、様々な研究が行われてきました。
音声言語は私たちがコミュニケーションに用いる最も一般的なツールであり、音声という発せられた言葉の内容(言語的情報)が伝えられるだけでなく、言葉以外の情報(非言語的情報)も音声という音が持つ特徴の中に含まれて伝えられていると考えられます。
例えば「怒っている」とか「悲しんでいる」といったような、話している人が今どのような感情状態にあるのかは、声を聴いただけでも伝わります。
また、話し方が上手いとか、好きな話し方・嫌いな話し方といった感性的な印象も音声から受け取ることでしょう。

音声における非言語的情報は、主に声の高さ(ピッチ)や話の速さ(テンポ)、音の高さの上げ下げ(抑揚)などの音声の持つ様々な特徴により伝わっています。
私たちが音声を発声する場合には非言語的情報は必然的に伴われていて、その違いによって書き言葉にすると同じ内容が異なる情報に変化して伝わったりします。
例えば友人に電話で「なにやっているの」と話す場合を考えてみましょう。
遊びに誘おうと思って尋ねる場合の話し方と、約束の時間になっても待ち合わせ場所に来ない時に尋ねる場合の話し方は大きく違ってくるでしょう。
前者の場合には「疑問」の意図が伝わり、後者の場合には「非難」の意図が伝わるのではないでしょうか。
このような非言語的情報は意識する・しないに関わらず、積極的に音声コミュニケーションにおいて活用されている情報と言えるでしょう。

そのような非言語的情報を伝達する音声の持つ様々な特徴と、音声から受け取る印象との関係についての研究は近年大きな進展を見せています。
特にSTRAIGHT(河原, 1999)やWORLD(森勢, 2016 )といった、音声を高品質に分析・再合成する技術が開発され、音声の持つ特徴を、パソコンで極めて自然に様々な形で操作することが可能になりました。
すなわち、ある人の声を使って、高い声で喋らせてみたり、話す速さを変えてみたり、男性の声を女性の声のように変化させるといったことが可能になったのです。

このような技術を用いて、音声の持つ様々な特徴を変化させてみて、その音声を聴いた時の話し手の印象はどのように変化するのかといったことを研究しています。
好ましい、上手いと思われる話し方の特徴はどのようなものなのか?話す速さを変えることで、外向的で積極的な性格という印象が強くなったり弱くなったりするのか?声の高さと速さの変化を組み合わせると、信頼できる人物という印象はどのように変わるのか?etc.

このような「私たちは音声からの様々な情報をどのように受け止めているのか?」という問いに対して、実験心理学的なアプローチを通じて明らかにしていきます。
おすすめの図書
「時間は存在しない」 カルロ・ロヴェッリ(著) NHK出版 2019年
私たちにとって「時間」は存在するのが当たり前のことです。
ですからこの本のタイトルに驚き、なぜそう言えるのかという興味がふつふつと沸き、手に取りました。
著者はイタリアの理論物理学者ですが、本文中には熱力学の第二法則の「ΔS≧0」というシンプルな数式が1つ出てくるだけです。
高度に難解な理論を扱ってはいるのですが、普通の人々にもわかるようなエッセイとして巧みに書かれています。
時間の進む速さは場所によって違っている、それどころか過去と未来は区別されるものでなく現在も存在しない!途方もない世界の真実の姿を鮮やかに解き明かしていきます。
心理学者から見て共感するのは、私たちが世界をどのように認識するのかという根源的な問いに目を向けている点です。
当たり前だと思っているものが本当はどのようなものなのかを解き明かしたいという、知的好奇心にかられる人はぜひ一読してみてください。